◎ センパイ観察日記(ウラ視点。ウラモモ前フリ?) 

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良太郎がやってくると、センパイのテンションが上がる。
「おーきたな良太郎」
センパイ、モモタロスは忘れてる。
良太郎が雷にうたれ、僕たちの姿が人間のもの、僕らが良太郎に憑依したときの姿のままになっていること。
人間の姿だから、隠さなければ感情は態度や表情に現れる。
席から立ち上がり、コーヒーカップを携えたままセンパイは良太郎の向かいに腰掛ける。
「センパイ埃舞い上げていかないでよ」
「あーわりぃな」
普段ならこの言いがかりに敏感に反応するモモタロス。
でも今はきいてない。視線、体、意識全部が良太郎に向いている。
まるで、飼い主を見つけた犬。それも、大型犬が尻尾を振ってるようだ。
良太郎は良太郎でモモタロスをみるとはにかむように微笑む。
モモタロスもつられて笑う。
ああ、センパイホントに幸せそうだね。良太郎が固まるくらいの「大好きビーム」をだしている。
その良太郎はこちらへ顔を向けると、困ったような顔をして笑う。
でも、彼もまんざらじゃないみたいだ。もっとも、センパイがどんな種類の大好きビームを出してるかまったく気付いてないみたいだけどね。
気付いたところで良太郎はそれを嫌がったりはしないだろう。
どんな種類の感情であれ、良太郎は他者の好意を払いのけたりはしない。
「はいこれ」
のんびりと良太郎は携えていた紙袋をモモタロスに渡す。
「なにそれ!?みせて!みせて!」
リュウタが紙袋を目に留めたずねる。イスを飛び越えて駆け寄るがさっと身を翻したモモタロスは無言で食堂車をでていく。
「なんだよ!モモタロスのケチ!」
リュウタはドア越しにモモタロスに叫ぶ。
児童の姿のリュウタロス。最初の頃はみんな良太郎の肉体年齢のすがただった。時間が経つにつれて、自分たちの精神年齢・性質にふさわしい姿になっていった。リュウタは短パンとランドセルの似合う年齢。
小さくて華奢な子供はドアをけりつま先を押さえてうずくまる。
「いたい……」
「大丈夫?」
「うん」
声をかける良太郎にリュウタはいう。
「あの様子からすると、なんぞ、ひとに知られたくないモンやな……」
キンタロス。
荒行のよく似合う山伏のような大男。
190以上の身長に、筋肉で盛り上がった胸板。長い髪は後ろでくくり黄色と黒の縦じまの着流し割れた腹筋には幾重にもさらしがまかれている。
髭は毎日そってるはずなのに夕方になるとなんとなくこ汚くなる。
一言で言えば毛深い熊男。
熊男はうでぐみし、顎に指をあて何事か、考える仕草をする。
「わかった、エロ本やな」
「……」
ぶっと良太郎は飲みかけのコーヒーを吹き出す。
「えろほんってなに?」
「ち、ちが」
気管に入ったのか良太郎は激しくむせる。
「ねえ何?なに?」
「んーーー」
きかれたキンちゃんは腕組みし天井を向く。
そしておもむろに
「z−」
いびきをはじめる。
「ねえ。えろほんてなに!?教えてよ!ねえ」
腕を掴んで揺らすリュウタ。
こちらの矛先がきそうだなと思ったとたん。リュウタはこちらをみやる。
「かめちゃんえろほんてなに?」
「大人が見る写真集だよ」
「写真集?それおもしろい?」
「んー。おもしろいかっていると……ふふふふ」
「…かめちゃんがへんなわらいかたしてる……」
「人によってはこういう笑い方になるんだよ……」
「……ふーん……」
それで興味をなくしたのかリュウタは元の席へ。大人しくお絵かきをはじめる。
「エロ本に楽しさを感じるにはもうちょっと大きくならないとね」
まだむせてる良太郎にハンカチを渡して僕も食堂車をでる。
寝台車両に一歩はいったとたんに、腕を掴まれて空き部屋に引きこまれた。
「……」
びっくりした。
「しっ」
モモタロスだ。
彼はしっとひくく唸る。静かにもなにも、片手はこちらの口をふさいでいる。騒ごうにも騒げない。
こちらの口をふさいだまま、彼は通路の様子を伺っている。
そういえばこんなに近づいて彼の顔をみることはないな……
良太郎に取り付いているときとほとんど変わらないモモタロス。
よくみると全体的に角ばった感じがして、良太郎よりも男くささが上がってる。赤い目。逆立った髪。一部分にメッシュがはいっているのは相変わらず。でも、背が本体の良太郎より低く、それを補うように筋肉がついて締まった体になっている。
目の前を一筋の赤い髪が動く。
ああ、こんなに背が低いんだ……。こちらより五センチ、いや十センチは低い。目線一つ分強低い。
「ひとりか?」
「……」
見れば分かるでしょう。
口をふさがれているからうなずく。
「よし」
いいながら彼は自分のデニムの尻ポケットから小さな紙包みをとりだす。
「だまって受け取れ……こないだは……わるかったな」
「?」
「お前の香水のビン割っちまっただろッだから同じようなの買ってきて貰ったんだよ」
数日前確かに使ってない香水瓶を一本割られた。大げさに騒いだ。
「……」
「たかが水のクセにえらい高かったぞ……」
いいながらモモタロスの目は、こちらの目元でとまる。
「?」
「……おまえ良太郎と同じところに黒子がある」
右目の下真ん中あたり……。口を押さえていた手を離して彼は見る。
「こっちもだ」
右上唇の上のほう。
いいながら彼は、人の黒子をごしごしと指でこすり出した。
「いたいなっやめてよっベースが良太郎なんだから特徴の一つや二つ残ってるの、あたりまえでしょう?」
「俺はなくなったのに……」
「それ、僕のせいじゃないよ」
「身長だってお前、良太郎とほとんだかわらねえし」
「それも僕のせいじゃない」
「だいたいお前……どうしてあんまり変わらねぇんだよ?」
「そんなの知らないよ……なに?センパイうらやましい?」
「……んっ…なこと、あるわけねえだろっ」
いいながらちょっと赤くなる。
教えてやるべきだろうか?
努めて隠さなければ、思ってることは表情や態度に出るって……。
体中から良太郎大好き光線出してるって、それをとうの良太郎はうすうす感づいてるみたいだって……教えてやったらどうなるだろう……?
いや、やめておこう。
そうしたら、あんな嬉しハズかしバカップルみたいないちゃいちゃみれなくなっちゃうもん。
恋心は自分で気付けばいい。
「ふふ」
「なんだよ」
「これ、ありがたくもらっとっくよ……。お礼にサービスしちゃおうかな」
「はぁ?……」
メガネを外して僕は、良太郎みたいに笑う。
「ありがとう……モモタロス」
良太郎のように言って、モモタロスの首に手を回してみる。
ふうっと、視界がまわって、僕は背中から床の上に倒れていた。
投げ飛ばされたと分かったのは、モモタロスが冷たい目でこちらを見下ろしていたから。
「からかうんじぇねぇよ……」
拗ねたような口調のモモタロス。
「おまえは、良太郎じゃねぇ」
香水瓶の包みをこちらの懐にねじ込んで、彼は去ろうとする。
「センパイ」
「……なんだよ」
「そうだよ、僕は良太郎じゃない。どんなに似ててもね」
「……ちっとも似てねえよ」
「そう?そうだね……僕のほうが良太郎よりカッコイイし背も高いし」
一瞥もくれることなくモモタロスは食堂車へともどっていく。
良太郎のところへ……。
「いやだな」
うっとうしい。
ちょっとからかうつもりだったのに、あんな顔されちゃ……
「調子狂っちゃうよ……センパイ」



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